今回世界初演となる「森の反映」は、大谷康子さんから昨年(2011年)の夏に作曲依頼を受けたものです。この話をいただいてほどなく、軽井沢大賀ホールで演奏する機会がありました。 このホールは、ホール自体が優れていることに加え、 森の中にあって周辺環境が素晴らしく、楽屋からでもとても美しい木々が見えます。
私の師であるメシアンはよく「分からなくなったら、海でも山でも川でも自然のあるところに行きなさい。 そこを散歩すれば音楽が溢れている」 とおっしゃっていました。当時はまだ若く、その真意を理解するには至っていませんでしたが、 今になりようやく分かってきたように思えます。
作曲という作業は悶々と部屋の中で考えたりすることが多いのですが、 考える前に何かがないと、良いものは出てこないのではないでしょうか。川はリズムの宝庫、森は残響、和声の宝庫というように、 自然はインスピレーションの源なのです。
こうしたメシアンからの教えもあり、大賀ホールで木々の輝きを見た時に「森の反映」の前半部分~森に雨が降って木が育ち空気が浄化される情景。それが一日を通してくり広げられる~という着想を得ました。 “反映”という言葉の「光や色などが反射して光って見えること」が曲の前半のイメージです。
昨年の東日本大震災はまさに未曾有の大災害で、未だに多くの方々が仮設住宅におられたり、瓦礫の処理が進まなかったり、復興計画が困難だったり・・・。1年が経ちましたが、 様々な問題がニュースで取り上げているのを観て、とても心を痛めています。
“反映”という言葉には、「対照的に色がうつり合って美しさを増すこと」という意味もあります。震災では多くの尊い命が失われ、それと同時に多くの森や林も傷つきました。 震災で失われてしまった森が、再び空気や川、海、ひいてはそこに住まわれている人々と輝き照らして合ってくれるようになることへの祈り、それが後半となります。
ヴァイオリンもピアノもほとんどの部分が木でできています。つまり、いい森がないと素晴らしい楽器はできません。素晴らしい森の象徴でもあるこのヴァイオリンとピアノのアンサンブルを通じて、 森の反映のエネルギーが、ホール、客席を満たせるよう、大谷さんとともに頑張りたいです。【談】
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