ウィーン⇔パリ⇔東京

このタイトルの、ウィーンはモーツアルト、パリはショパンとメシアン、ラヴェル、東京は武満徹さんと私を表していています。矢印は必ずしも作曲家同士の相互の影響を示しているのではなく、古今の都市や国の様々な文化交流を示しています。また、非可逆リズム(注)のイメージでもあります。

モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番は非常によく演奏される曲で、とりわけ第3楽章は「トルコ行進曲」として知られ、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

現在のトルコであるオスマン帝国と中央ヨーロッパは幾度となく領土争いをしていました。オスマン帝国は軍楽隊を連れていることが多く、その独自の音楽にヨーロッパの人々は衝撃を受けました。その一人がモーツアルトだったわけです。私は20代の頃、中東に演奏旅行に行き、民族楽器の演奏を聴きました。モーツアルトが受けた影響もよく分かりましたし、 中東の音楽もまたヨーロッパの影響を受けているのだと思いました。オスマン帝国、現在のトルコと中央ヨーロッパは幾度となく領土争いをしていました。

昨年の文化会館のリサイタルでヤマハCFXを演奏し、CDの録音、浜離宮でのリサイタルでは搬入して頂き、鈴木俊郎氏に調律して頂きました。今年も同様に鈴木氏調律のCFXでリサイタルも録音も行いますので、心強いです。

CFXは非常に音の粒立ちがよく、弱音でも音がかすれることがなく、これほどまでに弱音が弾き分けられるピアノはないと思っています。 また、レガートがこの上なく素晴らしい。今回のリサイタルではCFXの魅力が良く出る演目を選びましたが、このショパンの「舟歌」はその中でも最も魅力を引き出せるのではないかと思っています。

CFXとショパンの相性は非常に良いので、昨年のショパンコンクールでCFXを選ぶコンテスタントが多いだろうと思っていました。実際に一番使われており、やはりと思うのと同時に、ピアノというヨーロッパの楽器でありながら、日本製のピアノの素晴らしさが世界で浸透している、この交流もとても嬉しく誇らしく思いました。

私はこのショパンの「舟歌」で最上のレガートに挑戦したいと思っています。

2015年東京文化会館小ホールのリハーサル

時との巡りあわせ(チラシ裏面)

2016年は武満徹さんの没後20年となり、もうそんなに経ったのかと驚きます。私が初めて武満さんとお会いしたのは1977年、まだパリにいた時で、「パリの秋」への出演依頼に来られました時でした。武満さんは私の師であるメシアンのことを大変尊敬しており、私が留学中に2,3度授業に参加されたこともありました。 1985年にメシアンが京都賞を受賞した時、武満さんは、「自分はメシアンがいるから作曲家になれたし、メシアンがいるから作曲を続けられており、大変感謝している。パリ国立高等音楽院で直接メシアンの指導を受けることはなかったけれど、自分はメシアンのことを先生だと思っている。」という趣旨の祝辞を述べられ、大変感銘を受けました。 メシアンもまた武満さんの事を最大限に評価し、授業でもとりあげました。私はお二人には根源的に似たところがあり、互いに惹きつけ合っていたように見えました。

私はピアニストで作曲家ですので、常に両方の視点から楽譜を読み解いていますが、やはり曲を書いた御本人と交流を持てたことは、非常に稀で幸福な事です。

武満さんの曲の初演をさせていただき、メシアンの曲をメシアンに指導していただきました。武満さんは英語、メシアンと私はフランス語でしたが、3人で話し合ったこともありました。その一言、一音、一時、すべてが財産となり、私の中で生きています

音楽において時はリズムでありテンポであり、一番身近なところでは鼓動でしょう。私は指導する際に、「ここは鼓動が高鳴っていくようなところだ」と言います。鼓動は生命の象徴であり、時の宿命は絶対に止められない事です。私は多くの作曲家から、最後まで生きようとする強さとエネルギーを感じます。もちろん、お二人からも言い尽くせないほどそのことを感じ、時を同じくできた喜びを今も享受しています。私の音楽を通じて、その一部でも皆様にもお伝えできれば幸いです。

(注) パリの秋:1978年の10月から12月にわたってパリで開催されたフェスティヴァル。武満氏は日本の現代音楽と伝統音楽シリーズの音楽監督。

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